裏ジャニB.R

まだ終わりません…。


7.
その頃内は、千駄ヶ谷4丁目を歩いていた。
「追いかけられてさ、タッチとかだったらさ、逃げ切れる自信あるけどさ」
内は先ほどから、ひっきりなしにカメラへ向けて話しかけている。緊張からか、目も首もキョロキョロと落ち着きないこと極まりない。
それほど緊張していることに自身が気付いているのかいないのか、内は饒舌に話し続ける。
「カメラで撮られたらアウトっていうのは……飛び道具やで」
幸いにも内は、今のところGPSに引っかかっておらず、そのおかげでまだ敵の姿を見ていない。だからだろうか、内の話す言葉にはまだ現実味がなく、どこか浮世離れしていた。
しかしその頃、同じく千駄ヶ谷……内より少し西寄りを歩く丸山の姿を、今まさに敵のGPSが捉えようとしていた。
【残り7人】


8.
「こんちわー、関ジャニ8でーす!大阪レイニーブルース買うてくださーい!」
千駄ヶ谷交差点付近を歩く丸山は、道すがら、発売したばかりの自分達のCDの宣伝に余念がない。
(パパラッチに見つかるからやめろって言ってるのに…)
カメラを持つ同行スタッフが、先ほどから何度も注意し、その度に「あ、すんません」と一旦は大人しくなるものの、すれ違う人や対岸の通行人を見つけては、手を挙げ選挙運動さながらに喜々として声を張り上げてしまう。
そんな丸山の心底嬉しそうな、楽しそうな姿に、スタッフも呆れを通り越してついつい顔が綻んでしまうのだった。
まだ、敵のGPSに捉えられていることなど、丸山もスタッフも知るよしもない、平和なひととき。
だがもちろん、そんな目立つ状態ではたして無事でいられるはずもなく―。
「ん……?なに、そのカメラなに?」
丸山が目をまんまるに見開いて声をあげ、対岸を指差す。
大通りを挟んで向こう側、明らかにテレビクルーと思われる一行とその中心にいる迷彩服の男。
目があった。
瞬間、横断歩道が青に変わり、迷彩服の男が小太りの身体を揺らして猛然と向かってきた。
「うわ、うわぁぁっ」
なにかに弾かれたように、丸山は走り出した。


……なんで欽ちゃん走りしてんだよっ!
不恰好な走り方の割には妙に足の速い丸山に、俺は心の中で思わずツッコミを入れながら、必死に追いかけた。
丸山はようやく現れた獲物だった。逃がしてなるものか。
ゲーム開始から20分。
俺は配給されたムダに目立つ迷彩服に身を包み、国立競技場から代々木公園へ抜ける北側の最短ルートである千駄ヶ谷近辺をうろついていたが、なかなか獲物が現れず暇を持て余していたところだった。
その時ようやく本部より「千駄ヶ谷交差点付近に丸山」との連絡が入ったため、丸山の登場を喜々として待ち受けていたのである。
そこへのこのこと、呑気に大声でCDの宣伝などして歩いてきた丸山は、まさに飛んで火に入る夏の虫―いや、今は春だが。いやそんなことどうでもいい。とにかく、格好の獲物なのだ。探偵学校に通う自分に初めて訪れた実践の場。ここはなんとしても一発で仕留めたい。
だが、そうこうしているうちに、一瞬早く気付かれてしまった。
急がなくては。このままでは逃げられてしまう。
目の前の信号が青に変わった瞬間、俺は丸山に向かって猛然と襲いかかった。
丸山もほとんど同時に走り出す。
……欽ちゃん走りで。
俺が小太りだからってバカにしてんのか、とも一瞬思ったが、どうやら素でテンパっているらしい。
丸山は、無我夢中なのかこちらには目もくれず、通行人の間をするりするりとかいくぐる。欽ちゃん走りのまま人ごみを抜け、一本先の横断歩道まで辿り着くと本走行の体勢に切り替え、まさに矢のような速さで一目散に渡り切った。
俺も慌てて後を追おうとするが、この時点で既に相当な差がひらいていた。
しかもこっちは日頃の運動不足が祟り、既に息が上がっている。
……くそ、追いつけない!?
丸山は、同行カメラでさえ追いつけないそのスピードを緩めることなく、小道に入ると更に加速度を増していく。
あっという間に、彼の姿が小さく小さくなっていった。
「うわ、めっちゃ走ってる……はえぇ〜」
不覚にも、思わず声が漏れてしまった。
俺は走るのをやめた。
最早、俺ごときがどう頑張っても追いつける距離ではない。
こうして勝敗は、いともあっけなく付いたのだった―。


無我夢中で走りきり、ふと気付いて後ろを振り返ると、もう既に迷彩服の男の姿など影も形もなかった。
「うわー、助かったぁ…」
丸山は肩で息をつき、ようやく歩を緩めた。
追いかけられる感覚は、想像以上にずっと怖かった。
ちょっと気を引き締めなければ。
相手は12人。1人かわしたってことは、あと11人や、敵は―。
丸山は闘志を新たに、大股で先を急いだ。


―しかしこの戦いは、トーナメント戦ではない。敵は先回りして何度でも攻撃を仕掛けることが出来るのである。この大きな勘違いに、丸山はまだ気付いていない。
【残り7人】


9.
「なにー?また逃げられたー?もう20分も経つのにまだ一人も撮れてないとはどーゆーことですかぁ?どーゆーことですかぁこのバカチンがぁー!!はいはいはーい、パパラッチ全員聞きなさーい。みんな代々木公園周辺に集結ー!はい集結ー!待ち伏せして確実に関ジャニ8を仕留めなさーい。いいですかー?急ぎなさーい、タクシー使えタクシーをぉ。それじゃいい報告待ってるからなー」
【残り7人】


10.
残り35分。
とりあえず難を逃れた安田・大倉両名は、あれから慎重にルートを検討した結果、青山通りをぐるっと迂回して、ようやく渋谷・宮益坂へと辿りついたところだった。
宮益坂は平日とはいえさすがに人通りが多い。さっき路上で追いかけられた恐怖がまだ尾を引いている二人にとっては、こういった人通りの多い道ではいつ人ごみに紛れて急襲を仕掛けられるかと気が気でないが、ここを通らないことには代々木には辿り着けないので仕方がない。
「うわー、ビックリした!」
「え、なになに?」
安田が突然ビクッと身を震わせたので、つられて大倉もビクリとして前方を覗き込む。
―しかし、敵らしき人物はどこにも見当たらない。
「携帯持ってる人がカメラに見えたぁ…」
安田が自分の見間違いに気付いてほっと安堵の息を漏らす。が、
「ん?携帯持ってる人がカメラに見えた?」
自分の言ったことが日本語として可笑しいことに気付き思わず反芻していると、
「……そら見えへんぞオマエ」
安田が訂正するより先に、大倉の冷ややかなツッコミが飛んだ。
しかし今ので緊張が一気に解れ、一瞬の間の後、二人して笑い合う。
こんなふうに笑い合うのも久々な気がする。
まだ、みんなと別れてから30分も経ってないのに。
二人で本当に良かった。
安田はまだクスクスと笑いながら、この緊張と恐怖の中、二人で行動できることに心底感謝していた。
二人は並んで歩きながら、今度再び敵に遭遇したときの対策を練る。
「とりあえずさ、でっかい横断歩道とかあるやんか。あそこでもし気付かれたら、二人ちょっとだけ別れよ」
大倉が両手の人差し指を自分達に見立てて、その指をくっつけたり離したり、身振り手振りで説明し、その案に安田は神妙な顔付きで頷き返して同意する。
こんな作戦が立てられるのも、二人ならではやな。
安田の脳裏にふと、さっき、敵に追い掛け回されたと言っていたスバルの事がよぎった。
スバルくん、今頃ひとりで心細ないかな。
それに、他のみんなも、大丈夫やろか。
ちょうど大倉も同じことを思っていたらしく、
「みんな、どうしてんねやろ?」
と呟いた。
―今度はこちらから、誰かに電話してみようか。
安田がそう言おうとして口を開きかけたその時、
「あれ、今おったぞ」
大倉が、立ち止まった。目を細めて遠くの一点……とあるビルの裏あたりをじっとを見つめている。
言われて安田も目を凝らすが、不審な人物の姿は既にない。
「なに、え?ホンマに言うてる?」
安田が不安げに大倉を見上げたその時、安田の持っている携帯電話が再び鳴り出した。
「え、なにこれ、なんのタイミング?」
さっきと同じように、電話中に敵が現れるかもしれないその状況に、電話をとるべきか否か迷い、混乱する安田。
「ちょ、横断歩道渡ろ。とりあえず」
大倉が安田の手を引っ張り連れ出そうとするが、手近な横断歩道の場所がわからずしばし逡巡する。
もちろん敵は、そんな混乱した状況を見逃さなかった。
突然、迷彩模様の塊が、再び弾丸のように二人に向かってきた。
「来た来た来た!」
「ヤバイヤバイヤバイ!!」
二人は互いの背中を押すようにして走り出し、今来た道を転がるように駆け戻った。
通行人にぶつかりそうになりながらも、パパラッチの猛追をかわすべく必死に走る。
パパラッチの奇襲が功を奏し、二人との距離は徐々に詰まる。
今度こそ、撮れる!
パパラッチが走りながらカメラを構えたその時、
帽子が風で煽られ、大きく後方に飛ばされてしまった。
パパラッチは舌打ちして立ち止まり、小さくなっていく安田・大倉の背中を見送ると、道端にぽつんと落ちた帽子を取りにすごすごと戻っていった。


「はぁ、はぁ、もアカン」
パパラッチをかわした事を知ると、二人は歩道脇の植え込みの辺りに息を切らせて座り込んだ。再び運良く追撃をかわせたが、こんな幸運が何度も続くとは到底思えなかった。
「あんね、もうゴールできへんような気がしてきた」
大倉が、泣きそうな顔で唇を噛んで呟き、安田もまた不安げな眼差しでスタッフを見上げ、ため息をついた。
【残り7人】


マルちゃんの「欽ちゃん走り」とヤスの「携帯持ってる人がカメラに見えた」をどう書こうか大変悩みました…。
これで、書き溜めたストックが全部無くなったぞぅ(滝汗)。
もうオンエアから一週間が経ったというのに、まだ半分もいってないのは何故(苦笑)。そろそろ、ばったばったと捕まえるわよ!
しかし、本部の口調と【残り○人】以外、BRっぽさは既に無くなってますね…。